次につながる「負け」 グッドルーザーとはなにか
更新日: 2024.10.03
投稿日: 2024.10.01
スポーツの試合では、必ず勝者と敗者が生まれます。
試合に勝った時には、誰もが自分の努力が報われたように感じ、祝福を受けて誇らしい気持ちになるでしょう。
反対に負けてしまった時は、子どもの心に悔しさなどの感情が押し寄せ、それを見ている大人も切ない気持ちになりますね。
しかし負けた時こそ、どんな振る舞いをするのか、負けを受け入れられるかが問われます。
そしてこの「負ける経験」こそが、子どもの課題発見力やレジリエンスが育つ大きな成長のチャンス。
今回はこの「潔く負けること=グッドルーザー」について紹介していきます。
もくじ
グッドルーザーとはなにか?
GOOD LOSER(グッドルーザー)は、直訳すると「よい敗者」のこと。
潔く負けを認め、相手の勝利に敬意を払い、試合に関わる人たちに感謝できる人のこと。
そして次に進むために、前向きな心で切り替える精神のこと。
さっきまで敵と味方に分かれて戦っていたチームが、試合が終わればお互いの健闘をたたえ合う。
特に負けたチームの選手が、悔しさを滲ませながらも凛として負けを受け入れる姿は、子どもの成長を実感する瞬間です。
グッドルーザーになるのは難しい…なぜなら
勝ちを信じて全力で戦った試合に負けることや、レギュラーに選ばれないことは、子どもにとって本当に悔しい経験です。
「練習が足りなかったのか」「あの時、自分がミスしたからかも…」と自問自答したり、悔しさで頭が真っ白になることもあるでしょう。
試合の後、
・相手のプレーや審判、チームメイトのせいにする
・相手の勝利を祝福できない
・感情的になってコーチや親の話に耳を貸さない
といった態度をとってしまう人を見たことはありませんか。
負けた悔しさに飲み込まれず、勝った相手をたたえるために顔を上げるのはとても難しいことです。
だからこそ、「グッドルーザー」として振る舞うことに大きな価値があるのです。
最初から「勝てなくても仕方がない」「どうせ自分には無理」という気持ちからは、グッドルーザーは生まれません。
悔しさや無念な気持ちを乗り越えて、堂々とした態度や前向きな気持ちになれるよう、日頃から準備をしておきたいですね。
グッドルーザーになれなかったイングランドのチーム
2019年のラグビーワールドカップの決勝で、世界ランク2位の南アフリカが、1位のイングランドを下し優勝した時のこと。
試合後の表彰式で、イングランドの選手は悔しさのあまり銀メダルの受け取りを拒否したり、首からすぐに外すなどの態度が問題になりました。
これはイングランドがグッドルーザーになれなかったことを、世界中に示してしまった事例です。
このような態度は、スポーツで身につけてほしいフェアな精神、スポーツマンシップとはほど遠いといえるでしょう。
勝利を信じて練習に打ち込むことは大切です。
しかし負けを受け入れられないほど「勝ち」にこだわり、「負けたら終わり」「勝つことにこそ意味がある」という考え方は、子どもの可能性を狭めてしまうことになります。
子どもがグッドルーザーになるには、練習時の声かけや日頃の大人の姿勢が大きく影響します。
「勝ち負け」をどうとらえたら、グッドルーザーになれるのでしょうか。
負けた時こそチャンス! 悔しさが子どもを成長させる
練習を積み重ねて臨んだ試合に負けてしまうと、親子でがっかりしてしまいますよね。
しかし負けから学べることはたくさんあります。
足りない技術や心構えはなにか「試合に負けた」「選手に選ばれなかった」などには、何か相手が自分たちより抜きん出たものがあったかもしれません。
自分に足りないものはなにか、と謙虚に自分を振り返ることは成長につながります。
どんな練習をすればミスをなくせるかスポーツにミスはつきものですが、ミスの回数を減らすと悪い癖が修正できたり、苦手なプレーが得意になることもあります。
ミスに向き合うことは、自分のプレーを振り返ることにもつながります。
心の準備をどうするか「試合前は一人で集中したい」という子もいれば、「リラックスするのがいい」という子もいるでしょう。
何かに取り組む前の自分のルーティンを考る、よい機会になります。
自分の役割を果たせたか試合や練習で活躍することだけが大切なのではありません。
誰かをアシストしたり、ベンチ内を明るく盛り上げることも大切な役割。
自分の役割は何かを考え、今自分ができることに注力することは、協調性や自律心、共感力などの非認知能力にもつながります。
このような振り返りや反省は、勝ってしまうとなかなかできないもの。
負けた時こそ、自分たちに足りなかった部分を見直し、次につなげることができます。
また負けた悔しさをバネに「次は絶対に負けない!」と、以前より練習に熱が入る子もいるでしょう。
勝ったチームは自分たちと同様、もしかしたらそれ以上に練習し、前向きに打ち込んでいたのかもしれない…と相手チームへのリスペクトの気持ちも生まれます。
そうです。敗者はいつまでも後ろを向いて悔しがっている時間はないのです。
ミスをいつまでも引きずるとプレーに支障が出るように、負けた事実に区切りをつけて、次のことを考えれば自ずと答えは見えてくるはず。
そのためには、周囲のコーチや親の接し方も重要になってきます。
グッドルーザーになるには、親の接し方がポイント
わが子が一生懸命スポーツに取り組んでいれば、「試合に勝たせてあげたい」「メンバーに入ってほしい」と思うのが親心。
でもなかなか簡単に叶わないこともあるでしょう。
そんな時、親はどんなふうに振る舞ったらいいのでしょうか。
○ 他人のせいにしない
○ 気持ちの切り替えを強要しない
○ 「負け」をしっかり受け止める
○ 相手チームや周囲の人への感謝
○ 気長に次のステップへのサポートをする
他人のせいにしない
「あの審判のジャッジはひどい!」「相手のチームがズルをした」「仲間が失敗したからだ」と、潔く負けを認められない親を見たことはありませんか。
親が「負け」を受け入れないのに、子どもだけにグッドルーザーになれというのは無理な話ですね。
原因を他人に押し付けてしまうと、子どもは負けを受け入るチャンスを失ってしまいます。
気持ちの切り替えを強要しない
「いつまでメソメソしているんだ!」「クヨクヨするな」「次のためにすぐ練習するぞ!」と、子どもの気持ちを置いてきぼりで、急いで気持ちを切り替えさせようとする人がいます。
負けを受け止める暇もなく次の行動を強いられると、しっかり気持ちを切り替えることができません。
ポジティブな気持ちで次のステップへ進むために、子どもが現状に向き合う時間を確保しましょう。
「負け」をしっかり受け止める
「懸命に戦った試合で負ける」「試合に出られなかった」など、どんなに努力をしても負けることはあります。
しかし敗北の辛い現実をしっかり受け止めることが、グッドルーザーへの第一歩になります。
そして「よく頑張った」「くやしいね」「相手チームもすごかったね」とお互いが全力を尽くしたことをたたえましょう。
「負けること」から逃げないことが、子どもの成長につながります。
相手チームや周囲の人への感謝
スポーツはサポートしてくれる人がいて、初めてできるもの。
対戦する相手でさえ、もしいなければ試合そのものが成立しません。
相手チームや審判や監督・コーチ、応援してくれる親や友だちにも感謝する気持ちを、常日頃から子どもに伝えるようにしましょう。
子どもは試合に負けた後や悔しい思いをしている最中には、すぐに感謝できないかもしれませんが、必ず理解する時がきます。
感謝を強制するのではなく、「相手チームがいるから試合ができて幸せだね」「審判の人も暑い(寒い)なか、頑張ってくれてるね」と、親が感じていることを素直に伝えられれば十分です。
気長に次のステップをサポートする
子どもの気持ちが落ち着いてきたら、「どうして負けたと思う?」「なにか改善した方がいいことはあるかな」などと問いかけて、子ども自身に次のステップを考えさせてみましょう。
子どもがどうしていいか悩んでしまうようなら、少しずつ親の考えやアイデアを提案してもいいでしょう。
「次は負けないように、自主練を始めよう!」
「あの時、ここをミスしたから修正しよう」
などと、親が主導になって動かないことがポイント。
あくまでも子どものペースに合わせて、やんわりと背中を押してあげられるといいですね。
負けることをネガティブに捉えないで
親が「負け」にこだわらず、相手チームの勝利にも敬意を払い、次に活かす姿勢を見せることで、「負けるのは悪いことじゃない」「負けても終わりじゃないんだ」と子どもに示すことができます。
そして「負け」を次に活かせる子どもに、少しずつ成長できるのです。
子どもにスポーツをさせる親は、
「スポーツマンシップを学んでほしい」
「礼儀正しさやフェアな精神を身につけてほしい」
「くじけない強い心をスポーツで養いたい」
という信念を持っている人が多いでしょう。
スポーツには、グッドルーザーになる要素やスポーツマンシップを学ぶ機会がたくさん詰まっています。
子どもの手本になるようなフェアで潔い姿を、「負けた時」にこそ大人が見せたいですね。
・グッドルーザーとは「潔く負けること」。
・「負け」から学べることは多く、子どもの「負ける経験」は大きな成長の機会になる。
・グッドルーザーになるには、日頃からの親の接し方も大切。
・スポーツでの負けをネガティブに捉えない。
(参考文献)
・Yahoo!ニュース | 「途中でこけちゃいました」に救われた−川淵三郎「グッドルーザー」を語る
・NHK アスリート×ことば | グッドルーザーでいよう(片野坂知広)
・Sportsnavi | スポーツマンシップを考える〜Good Loserたることの意味
・『スポーツマンシップバイブル』(中村聡宏著・東洋館出版社)