脳科学から考える、スポーツでも勉強でも活躍する子の共通点とは
更新日: 2025.01.23
投稿日: 2025.01.24
「サッカーが上手な⚪⚪くんは、勉強もできるんだって」「新体操のコンクールに出た⚪⚪ちゃんは、計算がすごく早いらしいよ」など、
スポーツと勉強を両立している子の話は、親同士の間でも話題になることがあるのではないでしょうか。
世の中で、いわゆる“成功者”と言われている人に共通しているのは、「粘り強さ」や「やり抜く力」があることです。
思い通りにいかないことがあってもあきらめず、最後までやり遂げようとします。
この強い精神力を支える根幹となるものが、スポーツで培う「体力」です。体力を育む過程の中で体力はもちろんですが、「粘り強さ」や「やり抜く力」が必要となります。
また前向きに、諦めずやり続けることで、スポーツ以外でも「粘り強さ」や「やり抜く力」の根幹を養うことに繋がり、「ここぞ」という勝負どころで、粘り強い力を発揮することができるようになります。
また、「スポーツを頑張る」ということは、「目標を設定して計画的に取り組む習慣がつく」ということにつながります。
「今は運動の時間」「今は勉強の時間」といった“切り替えスイッチ”がつくられやすく、どこで何を頑張るのかメリハリをつけることができ、確かな学習につながるとも言われています。
子どものスポーツと勉強の両立について、考えてみましょう。
もくじ
「運動と学力は関係する」といわれる根拠とは?
以前から、運動と学力には密接な関係があるのではないかと言われていましたが、それを後押しするようなデータや論文などが次々と発表されています。
文部科学省により、全国の小学6年生と中学3年生を対象に毎年行われる「全国学力テスト」で毎回上位に入る都道府県が福井県、秋田県、石川県です。
この3県は、小学5年生と中学2年生を対象に実施される「全国体力テスト」でも上位に入ります。
1位:福井県 2位:石川県 3位:秋田県
全国体力テスト(2023年度・令和5年度)の体力合計点
1位:福井県 2位:秋田県 3位:石川県
という結果に。このことから、「体力と学力は関係するのではないか?」といわれることがあります。
確かに「スポーツを頑張る」というのは、目標に向かって計画的に取り組む習慣につながります。
また、子どもはスポーツができるようになると、親やコーチ、周囲の人に認めてもらえ、自信がつきます。
認めてもらえた喜びや「自分はやればできる」という自己効力感が、スポーツでも勉強でも、次のチャレンジにつながるといわれています。
例えば、苦手なことがあっても、すぐに諦めずに努力し続けることができる子どもでは、粘り強く、やり抜く力が身につきます。
多少の壁があっても前向きに捉えてやり抜くことで、“自分の限界”をのばすことができるでしょう。
これは勉強にも結びつき、難しい問題が出てもあきらめず、チャレンジする姿勢にもつながります。
「体力と学力は関係する」という考え方は、ある意味、理にかなっているといえるでしょう。
脳科学の視点から考える。スポーツでも勉強でも活躍できる子の共通点
脳科学の研究においても、スポーツと脳は深い関係があることがわかっています。
脳には、「可塑性」(かそせい)、「汎化」(はんか)という2つの性質があります。
「可塑性」とは、「自らを変化・成長させる能力」のことです。
スポーツをすることにより脳のネットワークが連携して活性化し、集中力があがって学習効率がアップするといわれています。
「汎化」は、「ひとつのことを習熟すると、他のことも習熟する」という意味です。
脳には、何かをすることでその他の部分ものびていくという特徴があります。
スポーツで脳を使い、繰り返し練習を続けて上達していくことが、勉強の習熟につながることがあるのです。
「スポーツができる子は勉強もできる」
「夏まで部活を続けていた子が、その後の頑張りで志望校に合格」という話をよく聞きますが、
これらは脳の「可塑性」や「汎化」の影響があってのことなのです。
運動で分泌される物質が学習をサポート
運動をすると筋肉が収縮することで血の巡りがよくなり、脳への血流も増えます。
すると、血液中に含まれる酸素やブドウ糖の量も冷えて、脳の神経細胞が活性化され、ホルモンや神経伝達物質の分泌量が増えるのです。
実はそのホルモンや神経伝達物質が、学習に必要な「集中力」や「注意力」「記憶力」「知識の吸収」を助けることがわかっています。
その一部を紹介します。
例えば、ドーパミン、エンドルフィン、セロトニンは脳内で生成されるホルモンの一種で「幸せホルモン」と呼ばれています。
やる気や集中力、モチベーションに関与しており、前向きな気持ちになれたり、目標に向かって頑張ることができます。
これ以外にもたくさんのホルモンや神経伝達物質が、運動をすることで子どもの脳内に分泌されます。
ちなみにこれらの物質は、バランスのよい食事を摂ることでよりたくさん分泌されやすくなるので、同食事にも気をつけられるといいですね。
運動が勉強にもたらす効果とは
どうやら運動が勉強によい効果をもたらすことは、事実のようです。
では具体的にどんな効果があるのか、みていきましょう。
○ 集中力や記憶力が高まる
○ 切り替えが早くなる
○ 脳の神経回路が発達する
集中力や記憶力が高まる
運動をすると脳への血流が促され、脳内のホルモンや神経伝達物質が分泌されやすくなります。
すると「前頭前野」や「海馬」「扁桃体」といった学習に関わる脳の部位が刺激され、よく働くようになるのです。
海馬→記憶の中枢
扁桃体→感情と記憶の結びつき
といった働きがあるため、運動やスポーツをすることが学習力アップにつながります。
切り替えが早くなる
「なんとなくやる気が出ない」
「眠くて勉強に集中できない」
そんな時は軽い運動を取り入れると、気分が素早く切り替わります。
外に出て体を動かさなくても、ゆっくり呼吸をしながらストレッチやスクワットをしたり、ラジオ体操をすると、筋肉が刺激されて意欲ややる気が出てきます。
ただ漫然と考えていても切り替えは難しいでしょう。
「とりあえず体を動かしてみる」ことが、スイッチを入れ替えるコツです。
脳の神経回路が発達する
運動やスポーツをすると、BDNF(脳由来神経栄養因子)というタンパク質が脳内に分泌されます。
このBDNFは新しい神経細胞(ニューロン)の生成を促したり、神経ネットワークを効率的に動かすのをサポートしてくれるのです。
つまり脳内の神経回路がすくすくと発達して、新しい知識や情報を取り入れやすい状態になります。
また脳内の血流が多くなると、血液が運んでいる酸素や栄養が脳全体に行き渡るようになり、神経細胞が健康に保たれるでしょう。
無理やりスポーツをさせると脳の神経がストレスを受ける
これまで、スポーツと学力について紹介してきましたが、スポーツと学力は相関関係がありそうだからといって、「わが子に無理やりスポーツの習い事をさせる」のは、本末転倒です。
無理にやらせると、コルチゾールというストレスホルモンが出ます。
過度に緊張するとお腹が痛くなるのと同じで、脳の神経がストレスを受け、活性化につながりません。
⚫️公園で外遊びをする
⚫️親子でプールに行く
⚫️自宅でできる運動を親子でやる
など、子どもが主体性をもち、楽しく体を動かすことを心がければ、脳は活性化します。
そこに知識や情報をインプットすることで、学力の向上につながるでしょう。
スポーツに打ち込むことや、体を動かすことにより、良い睡眠が確保できます。
食欲も増して排便もスムーズになり、生活リズムが整います。
生活リズムが整うことで、心身のリフレッシュにつながります。
運動で体を動かすことは、子どもの体だけでなく、心の健康を考える上でもとても大切なことです。
子どもの育ちを長い目で見守りながら、楽しく体を動かす経験を重ねていきましょう。
・「体力と学力は関係する」という説は、ある意味理にかなっている。
・ スポーツすることで脳が活性化し、学力向上につながる。
・運動で脳内ホルモンや神経伝達物質が分泌され、それが子どもの勉強を助ける。
・子どもが主体性をもち、楽しく体を動かせば脳は活性化し学力の向上につながる
子どもの非認知能力を伸ばすには、スポーツを行うことで自然と培われることが分かりました。
体力と学力が関係していることに関しては、運動やスポーツなどで養った「我慢強さ」や「忍耐力」が勉強をして学力向上に繋がるということ、「可塑性」や「汎化」が脳内を活性化させることにより勉強での集中力やメリハリに影響することも分かりました。
ですが、だからと言って望まない子どもに無理やり運動、スポーツをさせることは、反対の影響を及ぼします。
子どもたちが主体的に楽しめる環境を親が手助けすることが子どもたちの成長に繋がります。親はできる限りのサポートや環境づくりを子どもたちにしていきましょう。
(参考文献)
・賢い子に育てる究極のコツ(瀧 靖之著/文響社)
・本当に頭がいい子の育て方(高濱正伸著/ダイヤモント社)
・運動を頑張る子は勉強も頑張れる!(春日晃章監修/出典:ベネッセウィメンズパーク「スポーツキッズママになろう!」)
・スポーツは脳にどんな影響を与える?(柳澤弘樹監修/出典:ベネッセウィメンズパーク「スポーツキッズママになろう!」)