小学校のプールが心配…泳げない子どもに大人ができること
更新日: 2024.06.06
投稿日: 2024.06.11
6月中旬頃になると多くの学校がプール開きを行い、いよいよ水泳授業が始まります。
就学前に泳げるようになっている子どもは、保護者世代に比べると2倍になっている調査結果もあり、子どもの習い事として水泳を選ぶ人は増加傾向にあるようです。
一方、小学校に入ると体育の一環として水泳授業があり、「水が苦手」「プールが怖い」と感じる子どもや保護者にとっては、心配なことも増えるでしょう。
今回は水を怖がる子どもに対して、その理由や保護者ができることを考えてみました。
もくじ
なぜ学校の授業でプールがあるの?
そもそも学校にプールが整備され、授業の一環として水泳が取り入れられているのは世界でも珍しいことのようです。
まずは日本の教育面から水泳授業を考えてみましょう。
水泳の授業はいつから始まった?
日本では古くから水の中でも戦える武術として、「水練」の技法が伝えられてきました。
江戸時代以降は水の中で戦う実践機会が減少しましたが、日本各地に水練場がつくられ、各地域の自然や水勢に即した訓練が行われていたようです。
四方を海に囲まれ、河川も多い日本では水泳熱も高く、昭和に入るとほとんどの旧制高等学校や師範学校にプールが設置されたといわれます。
そして1950年代、水泳訓練中や修学旅行中の小中学生が集団で水難事故に遭い、死亡事故につながるケースが相次いだことから、水泳技術の習得を目的に小中学校のプール建設が進みました。
現在では、全国の小学校で87%、中学校では72%の学校にプールが整備され、水泳教育が積極的に行われています。
*文部科学省 平成18年度データより
水泳授業の目的とは?
1950年代以降、全国の小中学校プールが設置され始めると、学習指導要綱には水泳授業に関して、「技能を養うこと」「ある程度泳ぎ続けること」という目標が設けられました。
水難事故をきっかけに広まった小中学校のプール設置だっただけに、「溺れないこと」を第一に考えた指導だったと考えられます。
しかし1970年代以降は「生涯スポーツ」や「健康」といったキーワードが生まれ、「スポーツに親しむこと」や「体を動かす楽しさ」に、より重点が置かれるようになりました。
現在の水泳指導に関しては文部科学省が、
・小学校3〜4年生:泳ぐ運動、呼吸をしながら水中を進む
・小学校5〜6年生:泳法の学習(クロール・平泳ぎ)
・中学校1〜2年生:泳法の学習(クロール・平泳ぎ・背泳ぎ・バタフライ)
・中学校3年生・高等学校1〜3年生:効率よく長く速く泳ぐ。複数の泳法で泳ぐ(リレーを含む)
と、学年ごとに水泳学習の目標とねらいを定めています。
「泳げる子」と「水が苦手な子」の二極化が進んでいる…?
日本トイザらスの調べによると、小学校入学時に「泳げるようになっている子」の割合は56.1%とほぼ半数。
親世代では29.6%だったことを考えると、近年は小学校入学前に習い事などで泳げるようになっている子が多いことがわかります。
学校の水泳授業は週1〜2回で、天気や温度などで入れないこと考慮すると、1年間で受けられる水泳授業は4〜5回程度。
水に慣れる程度なら十分ですが、「泳げるようになる」には少々足りないように感じている保護者が多いのかもしれません。
また習い事を始める時期が年々早まっており、なかでも「水泳」は人気No.1の習いごとなので、小学校以前に泳げるようになっている子どもが増加傾向にあるようです。
一方、「お子様が水を苦手だと感じることがありますか」という質問に対し、「ある・たまにある」と回答した保護者は40.7%と、4割の子どもに水への苦手意識があるという結果に。
これは「泳げる子」と「水が苦手な子」の二極化が進んでいることを表しているともいえるでしょう。
また「プールの授業を楽しみにしているか」という質問に、小学生は約70%の子どもが「楽しみにしている」と回答しているのに対し、中学生になると楽しみにしている子の割合は約25%と半分以下に減少しています。(ベネッセ調べ)
思春期に入ると、水着になることの抵抗感や日焼けや髪型を気にする生徒が増え、年齢が上がるとともに水泳授業に前向きに取り組めなくなるようです。
「水が嫌い」「水が恐い」と子どもが感じるきっかけや理由は
水が苦手な子どもは、何をきっかけに水を嫌いになり、恐怖心を感じるようになるのでしょうか。
子どもが水に対して苦手意識を持った理由やきっかけについて、考えてみましょう。
お風呂での嫌な体験
自宅や祖父母宅、旅行先などのお風呂で嫌な経験をし、怖い記憶として刻まれてしまうのは最も多いケースかもしれません。
・溺れて水を飲み、苦しかった
・耳や目、鼻に水が入って嫌な思いをした
・急に顔に水がかかって怖かった
・水が熱すぎて(冷たすぎて)驚いた
など、大人からすると「ささいなこと」でも、子どもにとっては「怖い」「苦手」と感じるきっかけになってしまうようです。
水に慣れさせようとしてわざと顔に水をかけたり、無理に潜らせたりせず、自然に水に慣れるまでゆっくり見守りましょう。
プールや川、海での怖い体験
赤ちゃんの頃は水遊びも大丈夫だったのに、幼い頃のプールや川遊び、海での経験をきっかけに水が苦手になる子もいます。
・ふざけて水に放り込まれ、水を飲んだ
・川や海で流されてしまった
・波をかぶったり、深みにはまって恐怖を感じた
特に自然のなかでは、川の流れや海の波などコントロールできないことが増えます。
ライフジャケットなどを装着するのはもちろん、子どもから目を離さず、安全を確保することは大切です。
ただ親が必要以上に水を警戒しすぎると、子どもも「水は怖いもの」という印象が強くなってしまうので、注意しましょう。
海洋恐怖症
海洋恐怖症は、広場恐怖症や閉所恐怖症などと同様の不安障害のひとつに分類されるものです。
海の生物に「襲われるのではないか」と恐怖を感じたり、海の映像を見ただけで不安になったり、息苦しくなることもあります。
幼い頃に行った海で溺れかけたり、流されて帰れなかった経験などから海洋恐怖症になる人が多いようですが、人が溺れている人を見ただけで恐怖心が強く残り、発症することもあるようです。
水への苦手意識を克服すると、楽しいことがたくさん!
子どもが水を怖がると、つい水場へ遊びに行くのを躊躇してしまいますよね。
しかし水への苦手意識が克服できたら、遊びの幅も広がり、楽しい経験がたくさん待っています。
子どもが水を怖がらなくなったら、どんなことができるのでしょうか。
休みの日のレジャーの幅が広がる
暑い夏は水遊びが一番楽しい季節。
湿気の多い日本の夏は、水泳や水遊びで得られる爽快感はなにものにも変え難く気持ちがいいですね。
水への苦手意識がなければ、夏休みのお出かけや旅行の選択肢が広がり、遊びの種類もぐんと増えること間違いなし。
また両親やお兄ちゃん・お姉ちゃんが楽しく水遊びをしていれば、弟や妹たちも自然に水に親しみを持ち、水への苦手意識は持ちにくくなるでしょう。
学校のプール授業の苦手意識もなくなる
学校の水泳授業は集団で行うため、なかなか個々の習熟度やレベルに合わせてきめ細かく教えてもらうことは難しいでしょう。
水に苦手意識があると、自分のペースが守れずに、より怖い気持ちが強まってしまうかもしれません。
たとえ泳げなくても、恐怖心がないだけでプレッシャーが弱まり、苦手意識を持たずに授業に参加できるはずです。
運動や健康促進のチャンスが増える
水泳は筋力トレーニングと有酸素運動の両方を兼ね備えた、非常に優れたスポーツです。
サッカーや陸上など、他のスポーツと併用して行う人が多いのも、肺活量を上げて持久力をアップし、同時に筋トレや怪我予防にもなる効率のよい運動だからといえます。
また適度に行うと喘息が改善したり、怪我後のリハビリにも役立つため、運動以外の目的でも行われる水泳。
物心がつく前に水への恐怖心を手放せれば、生涯の健康促進に役立つかもしれません。
水難事故にあっても溺れることを防げる
臨海学校や友人に誘われての旅行など、海や湖を訪れるのを避けられないこともあるでしょう。
四方を海に囲まれた日本では、飛行機やフェリーなどに乗る機会も多くなります。
万が一水難事故に遭った時、一番怖いのは水への恐怖心からパニックになり、不要に溺れてしまったり、他人を巻き込んでしまうことですね。
泳げなくても「体の力を抜いて仰向けで浮く」程度はできるようになっておくと、いざという時も対処できます。
水への苦手意識をなくすことは、「命を守る」ことにもつながるのです。
親子で水を克服するための5つのステップ
保護者からすると、「遊んでいるうちに、いつのまにか解消できるのでは?」「思い切って飛び込めば克服できるかも」と思うかもしれません。
しかし「怖い」と思う気持ちは理屈ではないだけに、水への恐怖心克服は最初が肝心です。
大人は気負わず、子どもが自然に楽しく練習を進められるように誘導できるといいですね。
ここでは「焦らないこと」と「環境を整えること」をポイントに、水への苦手意識を少しずつ変えていきましょう。
◯ まずは体の一部から
◯ 自由に触らせる
◯ 顔を水につけてみる
◯ 水の中で目を開けてみる
◯ いよいよ水に潜ってみよう
まずは体の一部から
水を怖がらなくなるには、最初が肝心です。
水遊びの最初の一歩は、手や足の先など体の一部を水につけてみることからはじめましょう。
この時ふざけて顔に水をかけたり、潜らせようとしたり、無理に水に慣れさせようとしないこと。
そして、体にかかっても不快にならない水の温度にしておきます。
「怖い」「危ない」といったマイナスな言葉も大人からはかけないように心がけ、「水遊びは気持ちがいい」「水とは仲良くなれる」と楽しさに注目するようにしましょう。
自由に触らせる
「子どもが水に興味を持ったら、子どもの好きなように自由に水に触らせて、大人は静かに様子を見守るのがベストです。
水がはねて顔にかかったり、冷たくて子どもがびっくりしても、急いで顔をふいたり、「怖くないからね」と慌てて声をかけなくて大丈夫。
そばにいる大人が「水って面白いね」「顔にかかっても怖くない」と落ち着いて対応することで、子どもは安心します。
慣れてきたら、自分から水に入りたがったり、もっと遊びたいと意思表示をするかもしれません。
周囲の子が楽しそうに遊ぶ様子を見て、「仲間に入りたい」と思うこともあるでしょう。
子ども自身の希望で次の段階に進むと、前向きな気持ちで水に親しむことができます。
顔を水につけてみる
最初は水を頬やおでこにつけてみて、慣れてきたら、顔にポタポタと水を垂らしてみましょう。
顔を洗う真似をしてみたり、少しずつ水で濡れる面積を広げていけば、不快感や恐怖心を持たずに水に慣れていきます。
大人も一緒に顔を水につけ、「気持ちいい」「怖くない」と楽しそうな様子を見せると、遊びの延長で水に親しむことができます。
次は息を大きく吸って、口だけを水に浸けてブクブクと息を吐き、また外に出て息をする練習です。
子どもの水嫌いの理由で意外に多いのが、「息ができないから」というもの。
泳いでいても、水に浸かっても息はできることを体感すれば、子どもは安心できます。
水の中で目を開けてみる
顔を水につけられるようになったら、次は水の中で目を開けてみましょう。
「にらめっこ遊び」や「何本指を出してるかクイズ」、好きなキャラクターの絵を洗面器の底に入れて見てみるなど、ゲーム感覚で挑戦できると楽しいですね。
今は学校の水泳授業でもゴーグルを装着することが多く、「水中で目を開ける練習は必要?」と思う人もいるかもしれません。
しかし不意に水に落ちることや、ゴーグルをつけていても水が入ってくることがあるので、「水中で目を開けられる」と子どもが実感し、いざという時にパニックにならなことが大切です。
いよいよ水に潜ってみよう
最初はお風呂やビニールプールなど、足がつくところで頭まで水に潜ってみましょう。
慣れてきたら、プールや海などで大人が両手をつないで一緒に潜ったり、抱っこして潜るなど、少しずつステップを進めることが大切です。
最初は目をつぶったまま、一瞬でも潜れれば大成功。
少しずつ潜る時間を長くして、「次は目を開けてみよう」「それができたら、息継ぎをしてまた潜ってみよう」と徐々に難易度を上げるのがコツです。
子どもの気持ちを尊重しながら進めよう
大人は気にしないような些細なことがきっかけで、「水嫌い」になる子どもは意外に多いものです。
そして「気にするな」「だからダメなんだ」などと言われることで、さらに頑なになり、水から遠のいてしまうでしょう。
・子どもの様子を見ながら、ゆっくり段階を進める
・できないことをできるようになったら大げさに褒める
・水が冷たすぎたり熱すぎないように調整する
といったポイントに注意しながら、焦らずに子どもの気持ちが乗って来るのを待ちましょう。
特に暑い日に、水鉄砲などの遊びから始めると、「楽しい」「怖くない」という気持ちになれる可能性が高まります。
子どもに無理強いせず、大人も焦らず、ゆったりと楽しむ気持ちで子どもの水嫌いを克服できるといいですね。
・日本の小学校の87%にプールが整備されているが、水泳が授業で教えられているのは世界でも珍しい。
・小学校入学時に「泳げるようになっている子」は、ほぼ半数。
・「お風呂で溺れかけた」といった幼い頃の体験が「水の苦手意識」につながることが多い。
・水嫌いを解消するには、焦らずゆっくり親子で楽しみながら水に慣れるのがよい。
(参考文献)
文部科学省 | 水泳指導の手引き
ベネッセ教育情報サイト | 学校でプールは始まりましたか? お子さまは楽しみにしているようですか?
日本トイザらス株式会社 | 「夏の水遊びに関する意識調査」結果発表
東京新聞 | 高校の水泳授業「なぜ全員参加?」女子生徒の疑問を本紙が取材「プールつらい子もいる」
アデック 知力育成教室 | プロに聞く!「水嫌い」「水が怖い」を克服して、水と仲良くなる方法
未来へいこーよ | 小学校のプールが始まる前に! 子どもの「水が怖い!」をお風呂で克服するコツ