アスリート城彰二さんの視点から運動が育む子供の未来

2024.01.10

最後となる第3回は、スポーツと子どもの関係や保護者のサポート方法など、アスリートとして、また子を持つ親としてのお話をしていただきました。

― スポーツが子どもにもたらす効果には、どんなことがあると思いますか。

 「体を動かす」「食事をする」「睡眠を取る」というのは人の基盤になるもので、スポーツには欠かせない要素ですよね。

だからスポーツには「こんなメリットがある」とか「こんな効果をもたらす」というよりも、もっと根幹の「なくてはならないもの」だと思います。自分が今、心身共々健康でいられるのも、スポーツのお陰です。

― 子どもが取り組むスポーツに対して、保護者はどんなふうにサポートするのがいいのでしょうか。

 子どもがスポーツで成功する秘訣は、保護者が子どもよりも熱心にならないこと。これは断言できます。

今は情報や知識が溢れていて、それを親子で共有していることも多いですよね。それは子ども自身が考える機会を奪っているというか、その情報にがんじがらめになっているような気がするんですよ。

― 親のアドバイスや知識が正しかったとしても…ですか。

 うまくなることや、いいプレーをする以上に、「子どもが考えること」が大事なんです。「やれ」と言われたことをやっている間は、自分では考えないでしょ。変化や突発的な出来事に対応できないのは、本人が考えてプレーしていないからで、試合中は予測できないことばかり起こるから対応できなくなっちゃう。
子どもにサッカーを教えていると、「コーチに教えてもらってないからできない」という子が増えてます。

子どもにアドバイスしたり、何かを教えたいなら、親や指導者が持っている情報の4分の1くらい、ほんの少しのヒントだけ与えてほしい。最近は親も指導者もよく勉強していますから、全部与えたい誘惑に駆られますが、ここは我慢です。

子どもをスポーツで成功させたいなら、保護者は食事や睡眠、生活習慣など、もっと基本的な部分のサポートに徹するのがいいでしょうね。スマホやゲームもストレス発散にはなるかもしれませんが、時間を決めて、体と脳を休ませることも大切です。

― ちなみに城さんのお子さんもサッカーをされていようですが、親子間で教えたりすることは?

 サッカーに関しては一切口を出しません。試合や練習を見に行くと、当然心の中では「もっとこうすれば」とか「違うんだよな」とか、思いましたけど…。でも息子には息子のスタイルがあるし、僕の経験を当てはめるのはちょっと違うと思うんですよ。

サッカーへのアプローチも考え方も、体の大きさも違うしね。別の人間ですから、僕のやり方はきっと息子には合わないんです。

息子から質問されたら「外からだとこう見えたよ」「こういう考え方もあるけどね」とふんわりとは答えますけど、断定的な僕のアイデアを伝えても、自分で考えて出した答えじゃないとうまく機能しない。反対に自分でひらめいた解決策だと、試合中でも練習中でも必ずうまく使えるものです。

― アドバイスしたい大人からすると、かなり我慢が必要ということですね。

 子どもといえども一人の人間、一人のスポーツ選手だと思えばいいんじゃないかなぁ。

僕の息子が小学校6年生くらいの時に、一緒に練習して一番気をつけたのは、彼より上手にプレーしないということでした。「おかしいなぁ」「昔はもっとうまくできたんだけど」とか言って、シュートの数を競い合っても絶対に負けるようにしました。

そうすると子どもは「俺、うまいかも」「できるかもしれない」って思うんですよ。これが「気づき」になって、原動力にもなる。

大人はつい、いいところ見せたくなって、上手なプレーを見せちゃうでしょ。子どもは不思議と「よーし、僕も頑張ろう!」とはならず、「僕には無理だ」「サッカー面白くない」ってなっちゃう。

僕らの時代はお父さんがコーチで教えたりしてコーチも下手でしたから、それはそれでいい面もあったということです。

― 地域でスポーツなどに取り組むと親がコーチや指導者で、子どもが指導を受ける立場になることもあります。その時に気を付けることはありますか。

 親子で指導者と選手の立場になると、どうしてもわが子に厳しくなりますから、できればそういう環境は作らない方が賢明かと思います。

僕もインテル・アカデミー・ジャパンの代表をしていた時に、息子がその学校に在籍していたことがありますが、なるべく距離を置いて関わらないようにしていました。他人の目もあるし、何より子どもがやりにくいだろうと思ったからです。グランドでは「コーチ」と呼ぶし、家では「お父さん」だし、家族が複雑な関係になり悩みも増えます。

お互い切り離して考えられる性格なら大丈夫かもしれませんが、親は冷静に平等にやっているつもりでも、子どもは嫌だと言えずに人知れず悩んでることもあるかもしれない。

今は色々な選択肢も増えて、あえて親子で同じチームに在籍する必要もないですよね。僕は個人的に切り分けた方が得策だと考えます。

― 子どものモチベーションややる気が下がった時は、大人はどう対応したらよいのでしょうか。

 やる気がなくなったら、やめたらいいと思います。大人はなぜ続けさせたいんでしょう。大人の願望でしょうかね。途中で別のスポーツや習い事に切り替えたくなったら、そうすればいい。

特に小学生の頃は、いろいろなスポーツを試してみるのがいいですよ。日本では専門的に取り組み始めるのが早いような気がします。アメリカなんて学期ごとに取り組むスポーツを変えるでしょう。

運動能力のレベルが一番伸ばせる小学生のうちに色々な種目に挑戦させて、子どもが夢中になれるもの、向いているものを選べばいい。その後、中学・高校と進むにつれて専門性を高めるのがベストかなと思います。

― スポーツの経験が親になって生かされていることはありますか。

 人を思いやる気持ちや協調性、特に人とのつながり、絆を大切にすることでしょうか。

今はゲームやSNSなど、一人でも楽しめることがたくさんありますし、一人で考えを深めていく時間も必要かもしれません。

それでも人は人とのつながりの中で生きていて、助けてもらわないと生きていかれない。だから子どもにも、友だちや仲間、人とのつながりを大切にしてほしいとは伝えています。

これも僕がスポーツをやっていなかったら実感できなかったこと。スポーツを経験することで、得ることや学ぶことが本当にたくさんあると思います。

― 最後に、城さんにとってスポーツはどんな存在ですか。

 人生そのもの、人生のすべてです。学びがあり、健康を維持できて、人とのつながりもできる。スポーツをやってきたから、すべてを得られたと思っています。生きていくうえで、なくてはならない大事なものです。

今は夢中でゴルフに取り組んでいますが、どんな種目でも一生スポーツは続けていきたい。食べること、そして体を動かすことが基本ですからね。

― ありがとうございました。

一覧へ