第3回の今回は、現役時代を振り返っていただきつつ、現在のご自身に生かされていることや、スポーツから学んだことを教えていただきました。
― ヨーコさんご自身、スポーツから学んだことはありますか?
ゼッターランド 「人を大事にすること」です。人を大事にするということは、「自分のことを大事にすること」でもあると思うんですよね。
セッターというポジションは、完全な裏方で縁の下の力持ち。
どういうボールをあげたらアタッカーが最高のスパイクを打てるかを、常に考えています。味方の力を最大限引き出そうと試行錯誤しながらトスをあげて、スパイクが決まればアタッカーもチームも喜んでくれる。「トスがよかったから、いいアタックが打てた」と感謝されることもある。「アタッカーのために」と思ってしたことが、不思議と自分に良い形で返ってくるんですよ。「情けは人のためならず」と、子どもの頃によく祖母から言われたことを思い出します。良い人間関係を築いていくってこういうことなんじゃないかなと思うんです。
「自分は理解されない」とか「わかってもらえない」と悩むこともあるかもしれませんが、人に何かをしてもらいたいと思う前に、まずは相手のことを考えて行動してみるとか、相手を理解しようとすることから始めてみるとか、動き出しの一歩を自分から始めてみると変化が起こせるかもしれません。
―人と人がつながるチームスポーツならではの学びや魅力でもありますね。
ゼッターランド はい。「バレーボールをやりたい!」と初めて母に伝えた時は大反対されましたが、私は一人っ子で、家庭の中できょうだい間の関わり合いができない分、他者との関係を構築しなければ成立しないチームスポーツの環境が必要なのではないかと、母も考え直したようです。スポーツには勝ち負けもあり、いつも自分が望んだとおりの結果が得られるとはかぎらない。また、真剣勝負の場ではお互いの関係がギスギスすることもあります。でもチームの目標を達成するためには、そういった問題も避けて通ることはできません。気持ちに痛みを伴うこともありますが、投げ出さずに取り組むからこそ、互いに信頼できる関係をつくっていけるのだと思います。
―真剣勝負は、やはりスポーツの醍醐味ですか?
ゼッターランド 遊びでも真剣に、夢中でやるから楽しい。勝負がかかった試合も同じです。真剣勝負の中には「紙一重でどちらに転ぶか」という、ゾクゾクするような場面がいくつもあります。私はそれがたまらなく楽しい。スポーツは心身ともに厳しいことも多いですけど、アドレナリンが出る感覚というか、いいプレーができた時や、勝った時の高揚感はたまらないです。
バレーボールでも「ゾーンに入る瞬間」がありますね。ボールが嘘みたいにゆっくり動いて、コマ送りの映像のように見える時があります。でもそれが調子のいい時にそう見えるとは限らないんです。面白いですよね。
例えば体が「ふわふわ」と軽すぎるように感じてコントロールしづらい時や、逆に重くて動きが鈍く感じる時など、コンディションは日によって全然違います。ただプロはどのようなコンディションであっても、ベストパフォーマンスに近づけていく方法を知っていますし、また、それが出来なくてはプロとは言えません。勝敗を見た時には必ずしも良い結果が出ない時もありますが、これは相手あってのことです。アスリート自身の「プロとしての質」をきちんと担保できるか否か、が重要です。
「体が重くて動かない」と自分では感じていても、「すごく調子が良かったね。」なんて周囲から言われることもある。そのことを不思議に思う自分がいると同時に、「プロとしてのパフォーマンスができていたのだ」と少しホッとする自分もいます。自分では調子が出ていないのに勝ったりすると、結果が出たことは嬉しいはずなのに「なんでだろう…」と納得できない気持ちになることもあります。調子のよさを感じている時に結果が出ると、一番気分がいいですね。すべてが合致して、結果がついてくることがベストだと思います。
― スポーツをする中で得た経験が、今の自分に生かされていると感じることはありますか。
ゼッターランド はい。いくつかありますが、その中ではとくに「我慢強く、粘り強く取り組むこと」はスポーツから学びましたね。
ボールをつなぐという連携プレーなどに関しては最初からうまく行くケースは稀です。何度も試行錯誤を繰り返し、探って探って成功するまでやり続けます。メンバーとの相性、組合せもあります。相手が変わればやり方も変えますから、とにかく答えが見つかるまではやめないという粘り強さはスポーツ由来だと思います。
できないまま諦めてしまったら、そこで終わりになってしまいますから。言葉にすると当然のように聞こえるかもしれませんが、「成功するまでやめないから、成功する」のではないかと思います。
― 最後にヨーコさんにとってスポーツとはどんな存在でしょうか。
ゼッターランド 生きがいです。心のよりどころであり、一生関わっていきたいもの。もし私がスポーツに出会っていなかったら、今の自分はないと思います。
そう感じられるのは、保護者や指導者たちが辛抱強く育ててくれて、使い続けてくれて、忍耐強く見守ってくれたからですね。そしてそれに応えたいという私の気持ちがあって、双方の気持ちの強さから生まれたものです。
今、私は指導をする立場にいて思うのですが、教えながら、同時に教わることが多く、一緒に成長できていることもあるのではないかなぁと感じることがあります。バレーボール経験の少ない学生も教えることがあるんですけど、ある瞬間にブレークスルーというか、壁を突破してできなかったことができる瞬間があるんです。
その兆しが見えて、向こうも乗り越えようと必死、こちらも伝えたい気持ちで必死。やっぱりその双方の思いが合致した時に、何かが生まれて、つながる感覚があります。この瞬間が本当に幸せです。