第2回の今回は、今現在スポーツに邁進している子どもたちや、スポーツを習わせている保護者の方への
メッセージをいただきます。
親子でバレーボールを極めたヨーコさんだからこそ見える親子の絆や距離感など、アドバイスいただきました。
― 子どもがスポーツをする良さ、メリットのようなものはあるでしょうか。
ゼッターランド たくさんあると思います。スポーツや身体活動を積極的に行うことによるメリットに関しては、科学的にもデータで証明されています。スポーツは「自分の体と向き合う機会」でもあり、自分の体を知る・興味を持つきっかけになると思うんです。私自身も経験しましたが、スポーツで怪我や故障をすると、健康体でいることがどれだけありがたいことかを痛感します。「健康でいられること」は決して当たり前のことではありません。子どもはスポーツを通じ、自分で体を大切にすることを覚え、少しずつ自己管理ができるようになります。自分の体とは一生付き合っていく訳ですから、「健康な体づくり」は人の一番基本的で大切な取り組みだと思います。
めいっぱい動いて、しっかり食べ、よく眠る。
体を動かすことは、メンタルヘルスにも良い効果をもたらすことも科学的に証明されています。
― 子どものスポーツ参加には大賛成なのですね。
ゼッターランド はい。反対に、スポーツをやらない理由が見つからないです(笑)。
私自身がスポーツを通じて学んだことや、救われたことがたくさんあったから、より強くそう思うのかもしれません。様々なスポーツシーンにおいて対人関係も学べますし、これからの時代により一層大切になる「非認知能力」を伸ばすことにも適していると思います。
2021年の東京オリンピック・パラリンピックの時、「スポーツの価値」ってなんだろうと、あらためて自分に問いかけてみました。結論は、多様な価値観・互いをリスペクトする、協調、協働、日常生活で人とどう関係性を築くか、自分の行動指針など、人間としての基礎が学べる要素がたくさんあるのがスポーツなんですよね。
個人競技でもチームスポーツでも、どんな種目でもいいですが、子どものスポーツ参加はメリットが多いと思います。
― ちなみにヨーコさんのお父様はどんな方だったんでしょうか。
ゼッターランド 私の父は母と違ってあまりスポーツが得意ではありませんでした。どちらかと言えば私や母がスポーツをしている様子を見て楽しんでいる感じでした。「何でもチャレンジしてみなさい」「できるからやってごらん」と私の背中を押すのが父の役目でした。
スポーツをしていると、「できないこと」や「壁」に必ずぶつかります。でも諦めずに何度もトライ&エラー、リトライを繰り返していると必ずできるようになる。粘り強く取り組む、辛抱する、といったことはスポーツから身についたことです。そして私のチャレンジの精神は、父が育ててくれたものですね。
― チームスポーツをされていて、仲間とよい関係を作るためのコツなどはありましたか?
ゼッターランド 「人の立場に立ってものを考える」とか「自分がされて嫌なことは人にはしない」とか、当たり前のことを身をもって学べました。
チームスポーツでは自分とは異なる意見や考え方が出て、真剣に取り組めば取り組んだだけチームがキリキリした雰囲気になることがあります。「違うなぁ」と思っても、同じチームのメンバーですから…自分と違う意見でも尊重し合ったり、双方の意見の中間地点を探ったり、と試行錯誤する中でバランス力が身についたのではないかと思います。
この調整力やバランス力を身につける方法は残念ながら教科書には載っていないので、自分で飛び込んで身につけていくしかない。苦労した部分ですが、今となっては貴重なトレーニングでした。
― アメリカのナショナルチームでプレーをして、日本との違いなどを感じたことはありましたか?
ゼッターランド 第一に「コーチング」に大きな違いを感じました。ナショナルチームは「オリンピックでよい結果(優勝、メダル獲得)を残す」というチーム共通の目標があり、それを目指して集まっているから、パフォーマンスが良くなかったとしても「お前らやる気あんのか!」と、やる気を問われるようなことは全くありませんでした。「やる気があるからこのチームにいるんでしょ」と。考え方が合理的なんですね。コーチはパフォーマンスが良くない原因を特定し、選手とともに改善策を探る。感情のままに怒鳴り散らしても何も改善されませんしね。そういうコーチは「コーチングスキルが低い」とみなされてしまいます。
チームメイトはプロ意識がとても高かったです。例えば自分と性格が合わない人がチームにいても、チームメイトとして一緒にプレーするだけで十分と、切り分けがはっきりしていました。「好きになる必要はない」「必要最小限の関係を構築すればいい」と割り切っている。プロの世界ですので、先ずはその「仕事」をキッチリとやることが最重要。「仲良し」と「チームワーク」は別ものだという考えです。また、チームに入団してからは様々な形式でミーティングが行われました。その中で「プレゼンテーション能力」と「ディスカッション能力」が求められることを痛感しました。自分の主張をしっかりと持ちつつ、調和を図る。
国民性もあるのかもしれませんが、日本は周囲に合わせようとする傾向がまだ強いと感じる時があります。
「和を以て貴しとなす」「和して同ぜず」。これが理想かな。どちらも私が好きな教えです。
― やはり意識が違いますね。
ゼッターランド プライオリティがはっきりしているのも面白かったです。自分の人生において何が一番大事で、次はこれ、と明確に決めているんですよ。例えば家族が大変な時に大事な試合と重なっていても、家族の元に駆けつける選手もいれば、「どうしてそっちを選ぶの?」という人もいない。価値観は人それぞれで、それは徹底していました。
私にとってバレーボールはとても大事な生きがいであり、宝物ですけど、自分の人生のなかの一部。自分のトータルライフを豊かにしてくれる一つのツールです。金メダルや代表選手といった大きな目標を掲げると、つい忘れがちですけれど、自分の人生にとって何が大切なのか、時には冷静に俯瞰して見られるようにしたいですよね。
― スポーツで子どもが挫折してしまった時、保護者がしてあげられることはありますか。
ゼッターランド 保護者の方には「一緒に落ち込まないで」と伝えたいですね。寄り添って、子どもの一番の応援者でいてあげて下さい。
私は日本に来たばかりの頃、学校にも馴染めなくて、慰めてもらおうと母にその辛さを訴えましたが、「ヨーコはヨーコよ」「あなたのことを大事に思ってくれる人がたくさんいるじゃない」と言われて「美味しいもん、食べに行こ」で終わり(笑)
もしここで母から「かわいそうに」「私が日本に連れて来たから、ごめんね」と言われたら、「私はかわいそうな子なんだ」と被害者意識が強くなって、自己肯定感がますます低くなったと思うんです。
子どもって落ち込んだり挫折したりすると、視野が狭くなってその部分しか見えなくなりますよね。大人にはその狭い視野を広げる役目をしてほしいと思います。
― 子どもと同じ穴に落ちない方がいいんですね。
ゼッターランド 子どもは人生経験も少なく、気持ちの切り替えスイッチもわからないので、大人が子どもの視点を切り替える手助けをしてあげるのが理想だと思います。
子どもは学校という狭い世界で生きていて、特に今は子どもの数も少ないので子どもの人間関係も停滞しがちです。「学校以外の世界がある」「あなたを必要としてくれる場所がある」という広い世界を見せるのも、大人の役目。そういう意味でも、スポーツの習い事は子どもの世界が広がっていいと思います。
― 大人には大人の役割があるんですね。
ゼッターランド 私は母に嫌なことがあって愚痴を言うと、「あなたも気づかずに人を傷つけているかもしれない」「絶対に人に嫌な思いをさせたらいけない」と随分注意されました。「私が傷ついて相談しているのに…。」と思いましたが、母のひと言で自分の行動を省みることができました。子どもがどんどん深みにはまらないように、周囲の大人が導いてあげることが大切だと思います。
スポーツをやっていると、成功することより失敗することの方が格段に多いです。でも、できないことがあるから挑戦が続けられるし、できるようになる喜びがある。これが「楽しい」ということですよね。
子どもの背中を押したり、手を引っ張ってあげたり、時には子どもにブレーキをかけることも必要だと思います。
参考リンク:
【スポーツ庁】
https://sports.go.jp/special/value-sports/importance-of-sport-habit-until-6-years-old.html
【日本スポーツ協会】
https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/jspo-acp/jspo-acp_chapter1.pdf